研究概要 |
腫瘍特異抗原並びに分化抗原の発現機構を解析するために、マウス胸腺白血病(TL)抗原をモデルとして、分子生物学的・細胞工学的・胚工学的手法を用いて、実験を行ない、次の様な結果を得た。1.細胞の白血病化に伴なうTL抗原の発現機序の解析:正常では発現されないTL抗原が白血病細胞で発現されるのは、遺伝子の転写のレベルにおける活性化によることを、各種正常並びに白血病細胞におけるTLmRNAの検索により明らかとした。さらに、遺伝子及び染色体の構造の解析を行ない、(1)トランスポゾン様配列の挿入,点突然変異等によるTL遺伝子,もしくは5'側プロモーター領域での構造の変異,(2)遺伝子の増幅,転座,もしくは再構成,(3)クロマチン構造の変化,等が白血病細胞に於ける遺伝子活性化の原因ではないことを明らかにし、細胞質因子が関与していることを示唆した。2.細胞分化に伴なうTL抗原の発現機序の解析:白血病化に伴なうTL抗原の発現の場合と同様の結果が得られた。しかし分化に伴なう発現には、クロマチン構造(DNase【I】に対する感受性)が関与することを明らかとした。3.トランスフェクション法によるIn vitroにおけるTL遺伝子の発現の解析:クラスIであるが発現様式の全く異なるH-2遺伝子と各種TL遺伝子との間で作成した各種キメラ遺伝子をマウスL細胞に導入し、それら遺伝子の発現を検索した。その結果、H-2遺伝子の5'側プロモーターは、TL遺伝子のそれに比べ10倍以上強いことを明らかとし、またTL遺伝子の転写がL細胞では一定の塩基配列から開始していないことを示す結果を得た。4.トランスジェニックマウス作成によるIn vivoにおけるTL遺伝子の発現の解析:TL並びにキメラ遺伝子の導入に成功してはいるが、抗原発現を示すトランスジェニックマウスを得るには至っていない。
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