本研究では、津波の数値計算の対象領域として、相模湾、駿河湾および東京湾の一部を含む海域が選定された。この海域は、近年巨大地震が発生し得ると考えられている場所であり、また一度そのような地震によって津波が発生すると模大な被害が生ずると推定されているために選定された。海底地形および海岸線は、海図を基に作成された。巨大地震として、関東大地震および安政地震を例にとり、断層モデルとして安藤モデルおよび石橋モデルを採用した。外海計算は、2kmメッシュで行われた。その結果、断層モデルによって、各地点での津波波形はかなり異なり、また最大水位の値も幾分異なることが判明した。なお、海岸線に比較的近い、水深200mから1000m程度の所での入・反射波の分離は、海岸線が複雑なこと、およびそれによる津波の多重反射のために、うまく行えないことがわかった。しかしながら、遠地性の津波の場合には、津波の進行方向は等深線に対してほぼ垂直なので、入・反射波の分離が比較的精度よく行えるものと考えられる。 関東大地震の際の津波の痕跡高とその地点付近の海岸における最高水位の計算結果と比較したところ、かなり高い相関が見られた。計算された津波波形は、海に突出した半島、たとえば房総半島先端付近や三崎付近では、約5分から20分程度で変動しているが、東京湾内ではそれが20分から40分程度でゆっくり変動していることがわかった。 今後の研究の課題として、多重反射波をも分離・透過することのできる境界条件を求めることが挙げられる。
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