研究概要 |
光合成の主役となる植物プランクトンの種組成がケイ藻類から鞭毛藻類へ遷移するとき、海水に溶けているケイ酸が極めて重要な役割を果しているのではないかという我々の主張を、噴火湾を実験水域として、水質とプランクトン種組成の時間的変化を詳密に観測し、立証することを目的とした。 噴火湾湾央部と湾外に定点を設けて、毎月一回、春のブルーム期には1-2週間間隔で、10m毎の採水を行った。塩分、温度、溶存酸素、リン酸,ケイ酸,硝酸,亜硝酸,アンモニア,アルカリ度,クロロフィル-a量などの測定を行い、次の結論を得た。 1986年度の春のブルーム期には、以前、観測した1981年度に比べて顕著なケイ藻ブルームは見られず、生物現存量が極端に多い時期はなかった。これは湾外の潮流や気象の条件が例年と多少異なり、湾内外と外洋水との交換がだらだら続いたためと考えられる。また、ケイ酸,硝酸,リン酸塩濃度を見ると、表層15m層では、ブルームの始まった時期にそれほど顕著とはいえないが、ケイ酸塩の濃度の減少率が最も大きかった。さらに、窒素を16としてほかの栄養塩の変化量を原子比で表すと、やはりケイ酸がブルーム初期に最大であった。 有光層下部で摂取される栄養塩の量を、鉛直的濃度勾配から見積った。そして、50mから80mの層ではリン酸や窒素に比べてケイ酸の消費の程度が最も大きいことを明らかにした。 以上の結果から海水中のプランクトンが増殖するとき、栄養塩は、ケイ酸硝酸、リン酸の順で減っていくと結論した。しかし、最初はケイ酸が大きく減少するが、その後は硝酸の方の減少率が大きくなり、海水から最初に消失するのは、ケイ酸ではなく硝酸であった。
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