研究概要 |
動物の硬組織、すなわち骨,歯,体毛,爪等はその個体の栄養状態、病変の情報源になるが、環境指標として用いられるかどうかについての検討を行った。骨,歯については現在収集の段階にあり、結果を出すまでには至っていないが、本年度は主として前年度より継続している人頭髪中の元素濃度の統計解析を行った。またニホンザルとカニクイザルの体毛について高周波プラズマ発光分光分析法により分析を行い、その結果の検討を行った。それらまとめるとつぎのとおりである。人頭髪や爪を環境指標とするには試料を正しく洗浄し、最良の方法で溶液化し、それらを高周波プラズマ発光分光分析法を用いて分析を行うこと、そして得られた値より正常値を求める際に平均値は幾何平均値で示すこと、さらに性差,年令差,地域差を加味した値を示すことが重要である。ニホンザル等の体毛については、人頭髪に準じて分析を行うが、結果は人頭髪の場合と異っている。一つは性差を示さないこと、他は人頭髪中の元素含量と大きく異なり、かつ地域差が大きいことである。すなわち、元素含有量についての分布状態、各元素間の相関については、同一地域の個体間において非常に良好なものが多いが、地域差が強く、異なる地域において、その濃度を異にしているものが多い。このことは個体が経口的に摂取する食餌等の物質に体毛中の元素含量が影響を受けるものであれば、遊動域を異にする群において、その環境における元素含量、およびそのパターンあるいは特徴が反映されていると考えられる。 以上述べた事実および観点から、国により食習慣の違いはあっても比較的均等性が強い人の頭髪は広域的な環境指標、その個体の栄養状態、病変の指標に用いられ、ニホンザルのような野性動物の体毛は狭域的であり、地域の環境指標として用いられる可能性が非常に大きいと考えられる。
|