研究概要 |
1.成人T細胞白血病ウイルス(ATLV)の伝播は母乳感染で、生後早期に感染が成立し、その後水平感染による感染のない事から、各年令層の感染率は、出生年当時の感染状況を反映している事が判明した。一方ATLVキャリア母親の末梢リンパ球中にウイルス抗原発現のある者の児に感染が集中しており(50%)キャリア母親に高リスク群の存在が明らかとなった。 2.長崎県大島町の隣接2カ所(O地区,S地区)の新たなフィールド調査の結果、B型肝炎ウイルス(HBV)感染率は両地区差はないが、ATLV感染率はO地区9%,S地区22%と有意の差が見出された。O地区は地元出生者が90%、第一次産業従事者60%、仏教徒97%で、S地区はそれぞれ、60%、40%、66%である。S地区は第二、三次産業従事者が多く、キリスト教徒27%で、仏教徒にも元来キリスト教徒が含まれる。分析結果、他地区出生者にATLV感染が集中、S地区のATLV高感染率が他地区出生者(特にキリスト教徒)の移動に伴うものと考えられた。 3.五島地区の過去80年間の両ウイルス感染率の推移から、個人的要因として栄養摂取,経済状態の向上,家庭内出産の減少が、環境的要因として母子センター,血液センター開設,学校給食等特に衛生環境の整備が感染率減少に有効に作用している事が明らかとなった。 4.以上の結果、HBV感染は地域により濃淡はあるが、広く分布し、その背景の上に個人的要因が重って感染率の高低が生ずると考えられる。一方ATLV感染は特定の家系に集中し、それらの移動状況が主に地域の感染率の高低に反映していると考えられる。同じ感染者でも個人要因によりリスクの大小が影響して蓄積して来る事になる。しかし両ウイルス共母児感染である為、地域社会における衛生環境により新たな感染者の増減が大きく影響される事も明らかとなった。
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