研究概要 |
本研究は、桜島周辺に夛数生息する腔腸動物、タコクラゲ,サカサクラゲ,サンゴイソギンチャクの藻類共生種において、これらの種の生活環境に対する物質的出入力をモデル実験により測定、環境形成能力を把握し、生態サイクルの中での機能的役割について検討することを目的とした。実験の結果、浮遊生活のタコクラゲは、環境水中の無機懸濁物を自ら分泌する粘液に絡めて、更に植物及び動物プランクトンを抱含し懸濁物を肥大させ、懸濁物沈降促進効果をもたらすこと、一方、底生生活のサカサクラゲは、すでに沈降している懸濁物を有機物塊として底質に不均一な構造を形成し、これを底生生物の餌として生態系の食物連鎖の中に組み込む機能的役割をもつことなど、二種水母が生態系における懸濁物の浄化と維持機構の重要な役割をもつことが明らかにされた。更にサンゴイソギンチャクを加えた3種の共生藻類腔腸動物の有機態窒素,無機態窒素,亜硝酸窒素,硝酸態窒素,有機態燐,無機態燐,溶存酸素量及び水素イオン濃度等の生活による水質変動を測定した結果、窒素や燐など生物種による明らかな相違がみられ、環境形成能力の相違が示唆された。また、水質測定と平行して検討した体内共生藻の形態と挙動により、種による環境形成能力の相違のみならず、藻類の共生の状態や共生機構の種特性としての生物学的重要性が今後の課題として残された。本研究結果の特記すべきことは、三種共生動物が環境に対し著しい溶存酸素量を上昇させ、これらの動物群が生態系の中で第一次生産者として働いている事だけでなく、今日行われている水質浄化の活性汚泥法と同等の工業的システム効果を示唆し、加えて懸濁物を淨化し、海域の水質を淨化する一種の汚水処理場であるという驚くに値する事を表している。今後、更に実験を重ね、詳細に追求することが海洋生態系の物質循環とそこに生息する生物との関りについて考察を深めるものであろう。
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