研究概要 |
トリチウムの遺伝的影響の個体レベルの研究、特に、哺乳動物を用いた突然変異の定量的研究は、膨大な数の動物を必要とし、経済的にも、施設設備の面からも、極めて困難である。しかし、私共のinvivo体細胞突然変異検出法PT-HTFI法を用いると、これまで、想像もできなかった低線量の放射線(10R)でも突然変異を検出することがわかった。本研究では、PT-HTFI法を用い、トリチウム水によるマウス個体レベルでの遺伝子突然変異誘発を試みた。1.突然変異の検出;大阪大学医学部無菌動物室においてPT♀とHT♂を交配し、妊娠10.5日目に、広島大学原医研にてトリチウム水を腹腔内に注射した。生後4週齢でF1マウスを屠殺し、体細胞突然変異と細胞死および奇形を検出した。F1マウス(a/a,b/t,pcch/tt,d/t,ln/t,pa/t,pe/t)の毛色は正常では黒色であるが、野性型遺伝子に変異がおこると、その胎児色素芽細胞由来の毛の部分が、茶-灰白色のスポットとなる。これまでの研究成果により、倍加線量(33R),1R,1遺伝子座当り変異率(2.2×【10^(-7)】)は、精原細胞での突然変異とよく一致している。 2.トリチウム水による突然変異の誘発;トリチウム水120μCi/g体重投与により、PT-HTF1マウス85匹中22匹(25.9%)に、トリチウム水60μCi/g体重投与により、F1マウス92匹中12匹(13.0%)に体細胞突然変異による毛色スポットが検出された。単純な計算では、今回、用いたトリチウム水120μCi/g体重は、110radに相当する。X線110R緩照射では、F1 161匹中25匹(15.5%)に変異が誘発されており、トリチウム水によるin vivoでの体細突然変異のRBEは1.8以上となり、精原細胞での突然変異(2.2)とよく一致している。これまでの結果はトリチウム水によるマウス体細胞突然変異の量効果曲線を求めることにより、ヒトへの遺伝的影響を推定することが可能となることを強く示唆している。
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