研究概要 |
アセタールテンプレートを用いる不斉誘導はその高い誘導率のため現在有機化学の中で重要な手法となっている。その機構に関してはSn2型協秦反応であると提唱させている。しかし、そのためにはアセタールの結合開製と求核剤(Nu)とアセタール炭素との間に新たに生成する結合生成とのタイミングが全く同時である必要がある。従って、用いるルイス酸(MXn)の酸性強度およびNuの求核性の程度等々によって、不斉誘導率および不斉誘起の方向などが支配されるはずである。今回、その様な知見を初めて得ることが出来これを利用してステロイド側鎖の立体選択的合成に成功した。ステロイダルアルデヒドと(2R,4R)-(-)-ペンタンジオールから合成したキラルなステロイダルアセタール(S-R,R体)をアリルシランと四塩化チタン存在下に反応させ、常法に従って処理すると(S-S体)のアルコールが圧倒的に得られた。一方、S-S,S体のステロイダルアセタールとアリルシランを同様に反応させたところ、(S,S)体と(S,R)体のアルコールの混合物を9:1の割合で生成した。従来、SSアセタールはRキラリティを誘起することが知られており、この場合(S,R)体を与えるべきであるが予想に反して(S,S)体を主生成物として与えた。一方、(S-S,S体)のステロイダルアセタールとアリルスズの反応は予想通り(S,R)体のアルコールを高選択的に与えた。結局、求核性の強いアリルスズはアセタールテンプレートの指示する方向で不斉誘起を行なうが、求核性の弱いアクルシランでは反応性が低いためアセタールの結合開裂が先に起こってしまい、不斉誘導はアセタールテンプレートによっては支配されず、ステロイド側鎖のメチル基等々のクラム則によって決定されることが判明した。すなわち、結合開裂と結合生成のタイミングが不斉誘導に重要であることが判った。これを利用してブラシノリドやα-エクダイソンの合成を行なった。
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