研究概要 |
腎臓の近位曲尿細管におけるビタミンDの1-水酸化酵素(1.25【(OH)_2】Dの生成に関与)は、副甲状腺ホルモン(PTH)により調節されているが、PTHの作用はタンパク合成を経て発現されると考えられている。一方、実験的糖尿病ラットでは1-水酸化酵素活性が低下しており、インシュリンの連続投与により回復することも知られている。しかし、インシュリンの作用が腎臓に対する直接作用であるか否かについては不明であった。筆者は、ストレプトゾトシンで糖尿病を誘発したラットおよびその腎を用いて、PTHとインシュリンの作用の関係について調べた。その結果、1.糖尿病ラットにインシュリンを投与すると6時間以内に1-水酸化酵素活性が亢進する,2.糖尿病ラットの腎をインシュリン存在下にインキュベートすると15分で1-水酸化酵素活性は増加する,3.あらかじめ副甲状腺を摘除してPTHのない状態にしておくとインシュリンの効果(2.で述べた)は消失するが、インシュリンとともにPTHも添加してインキュベートすると再び効果(インシュリンの)が認められるようになる,4.このインシュリンの効果はタンパク合成阻害剤の影響を受けない、などが明らかとなった。以上のことから、PTHによる1-水酸化酵素の活性化には、少くとも新しいタンパク合成を必要としない機構が存在し、この作用が発現するためにはインシュリンの存在が必要であること、従ってインシュリンの作用は尿細管に対する作用であることが明らかである。1.25【(OH)_2】Dは、また腎の遠位尿細管において、そのリセプターを介してCaの再吸収を促進すると考えられている。高血圧自然発症ラット(SHR)で腎の1.25【(OH)_2】Dリセプターについて調べたところ、その数が正常血圧の対照群WKYに比べて約半分に低下していた。この結果は、SHRで報告されている尿へのCaのリークの原因を示唆するものと思われる。SHRでは、腎における1.25【(OH)_2】Dの産生量が高いことと併せ考えると興味深い。
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