研究概要 |
ニューロテンシン(NT)は哺乳動物の大脳、とくに線条体に高含量存在することが知られているが、この高いレベルのNTを供給するニューロンの所在は不明であった。本研究ではネコを用いた免疫組織化学的検索の結果:1.線条件のNTは大半が神経線維・終末に局在すること,2.これらの神経要素にNTを供給するニューロンが線条体内に多数存在すること,3.これらのニューロンは線条体からの投射部位(黒質・淡蒼球)にもNTを供給していること,4.線条体NTニュートロンの約70%はエンケファリンやGABAを含有するニューロンと同一であること,5.これらの共存を示す線条体ニューロンは、上記3種の神経活性物質の豊富な終末領域に主に投射すること,6.のこりの約30%のNTニューロンは、エンケファリンやGABAの終末分布の乏しい黒質領域(主としてドーパミンニューロン)にもっぱら投射すること,7.ニューロン細胞体においてNTとP物質は共存しないことが判明した。以上の7つの所見から、線条体NTニューロンのNT免疫活性は,細胞体が低値、神経線維・終末が高値を通常呈していると判断した。本研究ではさらに、カイニン酸投与によって傷害を受けた線条体のNT免疫活性が変化することを見い出した。カイニン酸投与後4-30日目の線条体中央(ニューロン消失)部からNT神経線維がほぼ消失した。これはNTニューロンの内在性連絡の脱落を示す。この変化とならんで、同一の時期に、カイニン酸投与中央部を取り囲むニューロン残存部において、NTニューロンが多数観察された。換言すれば、中央部から周辺に拡散した低濃度のカイニン酸の影響で、残存する線条体ニューロンの細胞体内NT含量が上昇したことに他ならない。変性疾患に際してみられる線条体の機能的変化に対応するひとつの化学形態学的変化であると推定した。
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