研究概要 |
Fabry病は、α-ガラクトシダーゼ欠損によりグロボトリアオシルセラシド(CTH)が全身臓器に蓄積する遺伝性代謝異常症である。筆者らはFabry病を疑わせる所見を生前は全く示さず、剖検時の病理所見により初めて脂質蓄積症の疑いをもたれた2症例をこれまでに経験した。本症例はFabry病の典型例とは臨床経過が全く異なるが、心臓にはCTHが蓄積し、更に他の臓器ではCTHの蓄積が認められない等の共通性を示した。これらの事実よりFabry病の亜型としての可能性が考えられた為、その解析を行った。 1.臨床経過:Fabry病典型例において主要症状とされている四肢疼痛皮疹、発汗障害等は、本症例2例共に認められず、心臓障害以外は蛋白尿が認められるにすぎなかった。又、典型例と比べ高齢まで存命していた(症例1:72才、症例2:58才、典型例:30〜40才)、両例共に刺激伝導障害を示し、著しい心肥大が認められた。 2.各種臓器の脂質解析:本症例の心筋のCTH含量は、16.5or59.8[μmole/g dry tissue]と正常対照の100倍以上の蓄積を示し、典型例と同程度(17.5[μmole/g dry tissue])の蓄積である事が明らかとなった。しかし、他の臓器として腎臓、肝臓を分析すると、その糖脂質含量は腎臓の場合、典型例44.2[μmole/gdry tissue]に対し、症例1;1.5,症例2;3.1,対照;1.2[μmole/g dry tissue]であり、本症例の腎臓には典型例の様な蓄積はなかった。肝臓も同様な結果であった。典型例の肝臓には対照には全くない【Gal_2】-Cerが検出されたが、本症例では認められなかった。 以上の結果より本症例は、心臓のみがFabry症典型例と同様な症状を呈し、他の組織はそれを呈しない事が明らかとなり、Fabry病の発現が心臓のみの亜型の存在が推察された。
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