研究概要 |
有機溶媒中で光誘起コンホメーション変化を起こすことが知られているアゾベンゼン修飾ポリアスパルテートをビニルポリマー 導入した膜を用い、光による高次構造変化を膜中で実現することにより、新しい光応答材料の開発を目的として始めた本研究は、今年度は主に膜素材の合成,製膜条件,膜への光照射条件などについて検討を行なった。 膜素材であるポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)-アゾ基修飾ポリアスパルテートグラフト共重合体は、筆者らが独自的に開発したポリビニル-ポリペプチドグラフト共重合体の合成法に基づいて合成した。このグラフト共重合体をジメチルホルムアミドに溶かしてガラスシャーレ上にキャストすることにより得られる黄色の透明な膜を石英プレートに装着後、光照射による膜中のポリアスパルテート側鎖のアゾベンゼン基のシス【←!→】トランス異性化を調べたところ、UV光照射によりシスへ、可視光照射によりトランスへと可逆的に異性化することがわかった。さらに異性化に伴うポリペプチド鎖のコンホメーション変化を円偏光二色性スペクトルにより調べた結果、アゾベンゼン基がトランス型のとき現われるα-ヘリックス特有の223nm付近のピークが、シス型へと異性化することにより70%ぐらいの大きさとなり、α-ヘリックス含量が減ることが観察された。そこで、グラフト共重合体のジクロロエタンとメタノール(9:1)混合溶液中でアゾベンゼン基の異性化に伴うコンホメーション変化を調べたところ、膜の場合と同様の結果が観察され、溶液中での光誘起コンホメーション変化がそのまま膜中で達成されたことが明らかとなった。このグラフト共重合体中のポリペプチド鎖の重合度およびアゾベンゼン基の導入率などを変えることにより、ポリペプチド鎖の光誘起コンホメーション変化がもっと激しく(例えば、α-ヘリックス【←!→】ランダムコイル)起こることが期待できる。
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