研究概要 |
カブトガニ血球中に見い出された抗リポ多糖因子は、リポ多糖(LPSと略)と結合することによって、LPS依存性の血球内凝固カスケード反応を特異的に阻害する。また、抗LPS因子は、グラム陰性R型菌に対して抗菌性を示すほか、LPS感作赤血球に対する溶血作用をもつ。本研究では、抗LPS因子のもつLPS結合部位,およびその膜障害作用のメカニズムを探る一歩として、新たにアメリカ産カブトガニ(Limulus polyphemus)より、抗LPS因子を単離し、その全一次構造を決定した。まず、精製抗LPS因子を還元ピリジルエチル化後、リジルエンドペプチダーゼやクロストリパイン,S.aureusV8プロテアーゼで各々酵素消化し、逆相系HPLCによりペプチドを単離した。次いで、各ペプチドについて、フェニルチオカルバミル法によるアミノ酸分析,および気相式シークエンサーによる配列分析を行った。その結果、抗LPS因子は101残基の一本鎖ポリペプチドよりなる塩基性単紙タンパク質であり、【NH_2】末端から13残基めにAsnとLysのvariantsが存在し、分子量はそれぞれ、11,786と11,800であることが明らかとなった。日本産由来のものの【NH_2】末端に存在するピログルタミン酸残基は欠損していたものの、分子内に1個存在するS-S結合およびそのループ内に存在する塩基性に富む領域,3残基めごとに塩基性アミノ酸がくり返される領域,【NH_2】末端部分が疎水性でかてCOOH末端側が親水性という両親媒性物質としての性質などはよく保存されており、両者の配列は83%という高い相同性を示した。従ってこの分子のもつ塩基性および両親媒性という特徴は、LPSとの結合や膜障害作用という機能に深く関連しているものと考えられる。さらに抗LPS因子のCOOH末端側には、いわゆるカルモジュリン型の【Ca^(2+)】結合部位(EF-hand)に相当する配列のあることが見い出された。
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