研究概要 |
本研究は、金属エノラートが転位末端となるシグマロピー転位における「[2,3]Wittig対[3,3]Claisen転位の競争」をprobeにして、種々の"金属エノラート種"の構造と反応性を推定評価しようとするものである。本年度はアキラルなα-アリルオキシエステル系およびケトン系から種々の金属エノラート末端を発生させ、その転位挙動を検討して次の1〜3の成果をえた。1.構造の明確なエノラート等価体として、α-アリルオキシエステル系の【O!_】-および【C!_】-シリル化体を用い、それらの熱的およびフッ化物イオンによる転位挙動を調べた。その結果、「エノラート種が【O!_】-メタル構造をとれば[3,3]Claisen転位が、【C!_】-メタル構造をとれば[2,3]Wittig転位が進行する」という基本的な考え方の妥当性を明らかにした。 2.種々の方法により発生させた"Li-エノラート"末端の構造をそれぞれの転位挙動を通して推定した。すなわち、THF中で発生させたLi-ケトンおよびエステルエノラート末端は[2,3]転位せず、"chelated"【O!_】-メタル構造を、THF-HMPA中で発生させたLi-エノラート末端では、[2,3]転位が進行し、"solvent-separated"構造を、またTHF中で発生させたオキシムジリチオ末端は、[2,3]転位を起し【C!_】-メタル構造をとると推定した。 3.トランスメタル化法によって発生させた"金属エステルエノラード"末端の構造をそれぞれの転位挙動を通して推定した。すなわち、【O!_】-シリル化体からトランスメタル化によって発生させたTi(【IV】)およびSn(【IV】)エノラート末端の転位挙動を調べ、ともに[2,3]転位が進行することから、いずれも【C!_】-メタル構造をとっていると推定した。 なお、本研究で見出されたエノラート型[2,3]Wittig転位は、いずれも、高いエリトロ選択性を示すという興味ある立体化学的特徴を明らかにした。
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