研究概要 |
本研究では細胞工学用途をめざして、脂質を生成分とする生体膜モデルを調製し、細胞との相互作用を解析、さらには制御することを追求した。特に生体膜モデルの運動性(流動性)が細胞応答に及ぼす影響に力点をおいた解析を行なった。細胞としては、性質が比較的一定であり再現性の良い株化細胞であるL-細胞(マウス結合組織由来)と、免疫細胞であるリンパ球を選び、初期接着現象の評価を通じて細胞応答を解析した。生成膜モデルの生成分としては、最も一般的なリン脂質であるホスファチジルコリン誘導体を選び、疎水基をパルミトイル基(【C_(16)】以下DPPCと略),ミリストイル基(【C_(14)】以下DMPCと略)とすることにより脂質膜の流動性を変化させた。まず37℃で【C_(16)】系のDPPCは結晶状態,DMPCは液晶状態にあり脂質配向膜の運動性は大きく異なっていることが判明した。次に線維芽細胞であるL-細胞の初期接着性は、血清の有無によらずDPPC膜においては高く、DMPC膜においては低かった。即ちL-細胞はホスファチジルコリンを極性基とする脂質配向膜の固さを識別して接着したことになる。この接着機構について検討を加えた結果、細胞膜表層のたんぱく質及び【Ca^(2+)】,細胞内骨格(ミクロチュブール等),エネルギー代謝過程等々が関与する極めて能動的なものであり、通常の合成高分子基質に対する特異性の低い受動的なものとは明確に異なることが判明した。たいへん興味深いことには、免疫担当細胞であるリンパ球(ラットリンパ節由来)に関しては、この膜の運動性の識別現象はまったく見られず、DPPC,DMPCいずれに対しても高い接着率を示し前述の細胞の能動的な接着機序もほとんど観察されなかった。
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