研究概要 |
植物の光形態形成における光受容タンパク色素フィトクロムには2つのアイソフォーム【I】,【II】が存在し、【II】型は光条件によらず常に少量蓄積されるが、【I】型は緑色組織に少く、黄化組織に多量に蓄積される。フィトクロム【I】の合成の光調節は、従来アベナを材料として転写レベルで研究されているが、確かに転写の調節が見られるものの必ずしもそれだけでは説明できないことが示された。本年度の研究では、エンドウを材料としてこの点を検討した。エンドウのフィトクロム【I】のcDNA(mRNAの3'端側約1kbに対応する)を【^(32)P】でラベルしたものをプローブとして、RNAブロットハイブリダイゼーションを行なった。黄化組織では約4.1kbを中心として高分子量側にひろがる濃いバンド,緑色組織では約4.6kbにシャープでうすいバンドが各々検出された。この結果は、フィトクロム【I】のmRNAには、4.1kbと4.6kbの2つの型があり、後者は常に存在するが、前者は暗所でのみ蓄積することを示唆している。 そこで、各光条件下で生育した植物組織から抽出したmRNAを鋳型として、再度、cDNAのクローン化を行なった。残念ながら、緑色組織からは短いクローンが1つ得られたのみであったが、黄化組織からは多数のクローンが得られた。制限酵素分析により、クローンはA609(ほぼ完全長)のタイプの多数のクローンと、A301とに分けられた。塩基配列の解析の結果、A301には、3か所に各100塩基程度のGTで始まりAGで終わる配列の挿入があることがわかった。A301は、イントロンが取除かれる前のmRNA前駆体に対するcDNAと判断された。上記の4.6kbのmRNA分子種は、これに対応するものと推定された。以上の結果から、フィトクロム【I】mRNAの合成の光調節には、イントロンのスプライシングが関与しているという作業仮説が考えられる。
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