研究概要 |
蛋白質の2次元結晶の作成は結晶化の固難な蛋白質や膜蛋白質の構造解析に必要な、将来性の非常に高い手法である。我々は免疫系蛋白質(抗体,主要組織適合性抗原,T細胞レセプターなど)の構造と機能の解析に対して本手法を利用することを試みた。ところで、高等動物での自己と非自己の識別を行なっているのが免疫系のシステムである。抗体(免疫グロブリン)は非自己の成分である抗原だけを認識するが、T細胞レセプターは非自己成分(抗原)と自己成分(主要組織適合性抗原)を同時に認識する。免疫細胞そのものを用いた蛍光ストップトフローの実験から、T細胞レセプターの抗原認識においては、T細胞レセプター,外来の抗原および主要組織適合性抗原の三者が動的平衡にあることを明らかにした。しかし、細胞そのものを用いている限り、細胞膜上でのこれら認識に関与する蛋白質の構造と機能の研究には限界がある。そのために、細胞膜に類似した機能性膜を考案した。シリコン化合物(カバーグラスや半導体素子)上の脂質平面膜である。この膜は免疫反応での分子認識の場としても利用できるし、蛋白質の2次元結晶を作るのにも利用できる。免疫グロブリンや自己成分のマーカー蛋白質(主要組織適合性抗原)をシリコン基盤上の脂質平面膜に組み入れ、いくつかの免疫反応の機能をもたせることに成功した。ゆえに、このように再構成した免疫系の蛋白質を分光学的手法で検出し、二次元膜上での免疫系蛋白質の構造情報を得ることを可能にした。同時に、膜蛋白質は支持体上の脂質平面膜中を球形のリポソーム膜中と変わらない速度で横方向に拡散できることが分かった。今後の目標はT細胞レセプターをこのような二次元膜に再構成することと、これらの蛋白質の構造情報を分光学的手法を中心に追究することである。
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