研究概要 |
中枢神経系のグルタミン酸受容体チャンネルは、NMDA型,カイニン酸型,キスカル酸型の三亜型に分類される。このうちNMDA型チャンネルが海馬の長期増強の発現に深く関わることが知られている。本研究の目的は海馬錐体細胞のNMDAチャンネルの電気生理学性質をパッチクランプ法によって定量的に解析し、海馬錐体細胞におけるNMDAチャンネルの活動に関する基礎的データを得ることである。実験は胎生17〜20日目のラット胎児から初代培養した遊離海馬錐体細胞を対象として行った。主な結果は次の通りである。1.ラット海馬錐体細胞は培養後約7日目からNMDA感受性を示し、以後感受性は漸増した。チャンネルの活性化に必要なNMDAの最低濃度は1μMであり、1mMで最大応答が得られた。2.NMDA誘起電流の反転電位は通常の細胞外液中ではほぼ0mVであり、グルタミン酸,カイニン酸,キスカル酸による誘起電流のそれと等しく、これらの酸性アミノ酸によって活性化されるイオンチャンネルは類似の陽イオン選択性をもつことが結論された。3.NMDAによる膜コンダクタンスの増加は、マグネシウムイオン(【Mg^(2+)】)を含む通常の外液中では顕著な膜電位依存性を示し、-40mVより過分極側ではコンダクタンス増加量が漸減し、-90mVではコンダクタンス増加は見られなかった。コンダクタンス増加の膜電位依存性は【Mg^(2+)】欠如液中では観察されないので【Mg^(2+)】が膜電位依存性にNMDAチャンネルの活性化を阻害することが結論された。4.【Mg^(2+)】欠如液中では、NMDAは顕著に電流雑音を増加させた。これらの電流雑音の解析と単一チャンネル電流の記録の結果から、【Mg^(2+)】欠如液中でのNMDAチャンネルの単一チャンネルコンダクタンスは40pSであった。この40pSのチャンネルはグルタミン酸によっても活性化された。現在、このチャンネルの開閉に関する速度論的解析を行いつつある。
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