研究概要 |
血管平滑筋細胞内カルシウム濃度変化と血管平滑筋収縮機能変化を同時に把握するために、カルシウム感受性タンパク・エクオリンを摘出血管平滑筋標本に化学的に負荷する方法を試みた。エクオリンは分子量約21,000の巨大分子であるので、これをどのように生きた細胞内に導入するかという方法の確立が実験成功のための重要なステップとなる。骨格筋および心筋細胞においては、細胞のサイズが微小ガラス電極を用いて加圧注入を行なうのに充分な程度に大きいが、血管平滑筋細胞においては加圧注入法が不可能ではないにしても、非常に効率が低い。Morgan ψ Morganは無カルシウム・EGTA含有液を用いて平滑筋細胞膜の透過性を上げた状態でエクオリンを平滑筋細胞に負荷する方法を考案した。しかしながら従来この方法はフェレット(白イタチ)の門脈という血管平滑筋としては特殊な標本で主として実験がなされてきている。そこで本研究では先ずイヌの種々の血管平滑筋を摘出してこの化学的負荷法の適応の可否を検討すべく実験を施行した。ペントバルビタール静脈内投与で麻酔したイヌの心臓を脱血後摘出し、左冠動脈をその起始部から前下行枝および回旋枝を含めて切り出した。さらに腸間膜動脈をその起始部から約3cm切り出し脂肪および結合組織を除去し、それらの血管から螺旋条片標本を作製した。それらの標本をMorgan ψ Morganの方法に従い、エクオリン負荷操作後標本を【Mg^(++)】の存在下で徐々に生理的塩類溶液に戻し、光電子増倍管と張力測定用トランスジューサーを設置した暗箱内にて両パラメーターの測定を行なった。腸間膜動脈標本においては負荷操作後も収縮機能は良く保たれ、30mMKClおよび【10^(-6)】Mフェニレフリンの適用によって著明な張力発生を見た。一方冠動脈標本は30mMKClおよび【10^(-6)】M【PGF_(2α)】の投与によってほんの弱い張力発生を見るに過ぎなかった。両標本供に薬物投与による発光強度の変化は観察されていない。
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