研究概要 |
哺乳動物の血液凝固反応は、異種表面と【XII】因子との接合により開始される内因系と組織因子(トロンボプラスチン)と【VII】因子によって開始される外因系に分けられる。血漿由来の各凝固因子に関する研究は、この15年間の研究により一次構造,活性化機構,調節機構は殆ど解明されるに至った。しかし、最も強力な血液凝固開始作動物質として知られている血管内皮細胞の組織因子は、ウシ又はヒト脳よりアポ蛋白質が分離された程度で、その実体はもとより、細胞内の局在性,産生機構,遊離機構など組織因子の機能については全く不明な状態にある。本研究は、第一に血管内皮細胞由来の組織因子の分離を行い、組織因子と【VII】因子の複合形成について解析する。第二に組織因子の実体を明らかにする為に、組織因子のアミノ酸一次構造を決定することを目的とする。 今回、我々は肺血管内皮細胞由来の組織因子の分離精製を試みた。組織因子の精製はアセトン粉末を出発材料にして、コンカナバリンA-セファロース・クロマトグラフィー,ULTRO GEL AcA44カラムを用いたゲルろ過,不溶化【VII】因子AFF1 GEL-15を用いたアフィニティー・クロマトグラフィーを順次行うことにより、組織因子をほぼ単一に精製した。今まで、Nemerson,Brogeらによって脳の組織因子が単離されたが、得られた精製標品は0.4mg以下で、アポ蛋白質の性状は殆ど明らかにされていない。肺の組織因子を選んだ理由は、第一に肺での組織因子活性が高く大量精製が期待できる。第二に組織因子の性状は、臓器間で異なるかを明らかにしたいからである。今回、得られた組織因子は分子量で見る限り、脳由来のものとほぼ同一の結果が得られた。収量は現在の所、50μg以下であるので、さらに大量スケールで行う必要がある。今後、【VII】因子-Affigelカラムのスケールをアップすることにより大量精製を行う。
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