研究概要 |
昭和62年度は, 昨年に引き続き, 記号学一般の文献に関する検討を行なう一方, その成果に基づいて, 1970年代以降の音楽記号学のもつ可能性と問題点を, 批判的に整理し, 解題を行なった. 具体的な作業としては, カナダのモントリオール大学の音楽記号学者, ジャン=ジャック・ナティエの記した文献表を中心に, 先行研究が不充分なため研究が遅れがちであった無文字・無楽譜社会の音楽や日本の音楽に関する文献にも重点を置き, 各研究分担者がそれらの文献にあたり地域的研究会と共同研究会で, その内容について検討した上, コンピューターでデータを蓄積する, という形をとった. 一方, 大阪大学においては, 文献データベースをαBASEIIIで構築し始め, 現在までに400点余りの文献がカバーされているが, そのうち主要重要文献については, お茶の水女子大学と大阪大学の大学院生の協力を得て, 文献通読を行ない, すでにその成果をもとに解題データベースの試案も進められている. なお, 問題点としては, 徳丸を中心とする関東グループと山口を中心とする関西グループの情報交換は専用電話回線の許可がとれないため, 専らフロッピーによる連絡に頼っており, その効率性の悪さが挙げられる. 現在の人文科学において遅れ気味である文献情報のシステムを文献データベース, 解題ベース, テキストファイルという3段階システムより, より整備された形に確立することにより様々な角度から近づくことのできる検索システムの試作が可能になる様, 作業を進めてきたが, これは人文諸科学一般にも何らかの貢献をすることになるであろうと思われる.
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