研究分担者 |
井手 誠之輔 東京国立文化財研究所, 情報資料部, 研究員 (30168330)
岡部 由起子 (岡部 由紀子) 銀杏学園短期大学, 専任講師 (70160702)
下村 耕史 九州産業大学, 芸術学部, 助教授 (50069514)
菊竹 淳一 九州大学, 文学部, 助教授 (10000374)
兼重 護 長崎大学, 教育学部, 教授 (40039433)
錦織 亮介 北九州大学, 文学部, 助教授 (80047729)
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研究概要 |
中世以前の造形芸術の制作が工房の共同制作であることは, 洋の東西を問わず歴史的事実である. とくに絵画制作の分野では, 工房制作であるか否かは芸術史上の中世と近世とをわかつ指標の一つである. その事実は, 芸術制作の理念と実際とにどのように反映するのか. それが本研究の課題である. 第一年度はおもに個別研究の側面を重視して史料等の集成につとめ, 第二年度においては総合研究の側面を重視して美学的考察につとめた. その考察はこののち, 本総合研究各自の研究に反映して, 方法論の深化をもたらすことが期待されるが, 本総合研究の成果として指摘できる基本問題をあきらかにした. まづ, 中世以前の工房制作は, 美の認識論をどのように内包していたのか. 換言すれば, 工房の美学は存在論的なのか. 日本の絵師工房についての実証的研究は, 工房の美学は, 制作対象があきらかであり, 制作手段が固定していることが前提となることを教える. 紙形(目的)と顔料(手段)の継承は, 工房の成立の前提である. 固定と閉鎖は, それにともなう. しかし, 腕前の優劣は, その固定と閉鎖をうちやぶり, 美的体験の浅深を自覚せしめると同時に, 個性のはたらきをも認知せしめずにはいない. 工房制度の内と外のいづれにおいても, 固定化をこえたはたらきがつねに存することを教えている. つまり存在論的であるとおもわれる工房の美学は, それが芸術の制作であるかぎりにおいて, 歴史的事実の場においても, 認識論的立場をつねに内包していることが指摘される. このことは逆に, 近代的認識論の立場においても, 目的と手段についての明晰性は, 美の存在論の自覚をしていることになるにちがいない.
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