研究概要 |
近年精神薄弱養護学校の対象児童の重度化, 障害の多様化が進み, それにともなって教育方法上の工夫がさまざまになされている. その基本的対応は障害の特性や発達上の課題に見合った教材, 教具の開発と教授上の工夫である. こうした中で, 精神薄弱教育における教材, 教具に関する理論的解明が必要となってきている. 本研究はかかる現代的課題に答えるために, (1)精神薄弱教育の歴史における教材, 教具の発掘とその解明, (2)現代の精神薄弱教育の教材, 教具の開発に関する問題点の解明の二つの視点による研究を行った. 第一の歴史的解明では, 日本において戦前から開発, 展開された「教育的治療教具」の発掘, 復元, 理論的解明をおこなった. 従来は, 断片的にしか知られていなかった教育的治療学の体系とそれにともなう教具の体系化の一試案を提示しえたことは, 今後の教材, 教具の開発にあたって多くの指唆を与えるものと思われる. また, この教育的治療教具の源流として, 欧米における教具の体系化--フレーベル, セガン, モンテッソリー--をも試みたが, これはまだ糸口をつけただけである. 但し, 従来の文献研究に加えて, 本研究で明らかにした教育的治療教具によって, これらの教具体系も一層明らかにされるものと思われる. 第二の現代的課題の解明は, 現在の都道府県の教育委員会の担当者へのアンケート調査をおこなった. これによっても, 問題の切迫度は明らかであるが, その対応にとまどいが感じられた. それぞれの現場の問題への対応に手をとられて, 理論的解明に手がとどいていない. そのためにも, 本研究で明らかにした教育的治療教具の体系とその理論は多大の貢献となると思われる. 教育的治療教具に関する膨大な資料が, 61年度途中で提供され, その整理が進行中である. その作業に時間をとられたため, 現代的課題への付き合せが不十分となった. 今後の課題としたい.
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