研究概要 |
1)1986年10月17日, Hilary Kopriwski博士を招きMSとHAMに関するワークショップを京都で開催, HTLV-I抗体検索方法の問題点などを明らかにした. 2)MS患者177名についてPA法FA法でHTLV-I抗体の検索を行なった. 抗体陽性率は北海道で2/51, 仙台で0/19, 北部九州で2/29, 東京で1/30, 京都で12/48と施設により結果にばらつきが見られたが, MS患者の抗体陽性率は, その地域のHTLV-I浸透率に比例し, また加令にともない上昇することが示唆された. 3)厚生省免疫性神経疾患調査研究班(井形班長)とともに全国143施設の協力をえて行ったHAMの疫学調査で診断確定428例, 疑い92例, 計520例の症例の存在を明らかにした. 症例はATL流行地の九州, 沖縄にその60%以上が集積していたが, 北海道の28例をはじめATLの非流行地にも広く散在していた. 4)HAM症例のMRIによる検索の結果, 脊髄のほかに高頻度に大脳に病変が見つかった. また, MSとHAMの移行型の存在も示唆された. 5)ATLL24剖検例の脊髄病理所見とHAMの脊髄病変の比較が行われ, 両者の病態は明らかに異なるが, ATLLにもALDSで報告されている脊髄白質空胞変性類似の変化がおきていることが示された. 6)高知, 長崎のHAM患者の髄液細胞由来の細胞から分離されたHTLV-I proviral DNAをクローン化し, LTR, pX, env領域の塩基配列をATL由来のHTLV-Iのそれと比較したが塩基置換率は2〜3%以下であった. このことはHAMに関連しているウイルスは塩基配列のレベルでもATL由来のHTLV-Iに極めて類似していると推論された. 結語:レトロウイルス感染と多発性硬化症の因果関係は明白でないが, HAMなどレトロウイルス感染に関連した多様な中枢神経病変の存在を明らかにした.
|