研究概要 |
2,2'-ビピリジンの最低励起一重項状態から最低励起三重項状態への項間交差(ISC)に対するプロトン付加および反磁性金属イオンとの錯体形成の影響を, 時間分解ESRの実験を行って研究した. その結果, 2,2'-ビピリジンのISCは主として短軸方向の副準位に起るが, プロトンが付加すると分子面内における異方性が小さくなり, Zn(II)錯体では長軸方向の副準位に起ることがわかった. また, 代表的な含窒素芳香族塩基であるキノリン, イソキノリンについてもISCの副準位選択性に対するプロトン付加の影響を調べ, キノリンの場合, プロトン付加に伴いISCの副準位選択性が長軸方向副準位から短軸方向副準位へと大きく変化することがわかった. 4,4'-ジアザスチルベンの励起三重項状態は無りん光性かつ短寿命であるため, 時間分解ESR法が唯一の研究手段である. エキシマーレーザーを光源に用いた時間分解ESRの実験を行い, △Ms=±1遷移の信号を観測することに成功した. また, 延伸高分子膜法を用いてこれらの信号の帰属を行った. その結果, 最低励起一重項状態から最低励起三重項状態へのISCは分子面内の二軸方向の副準位にほぼ1:1で起り, 分子面外方向の副準位には最も起りにくいことがわかった. 従って, 最低励起三重項状態において, 平面に近い構造をとるという結論が得られている. 種々のニトロおよびジニトロナフタレンの最低励起一重項状態から最低励起三重項状態へのISCの副準位選択性およびゼロ磁場分離定数を時間分解ESRの実験を行って研究した. その結果, 短寿命のために従来の定常状態ESR測定からは得られなかった1, 4-ジニトロナフタレンのすべての共鳴磁場が観測され, ゼロ磁場分離定数が求められた. 得られた寿命およびゼロ磁場分離定数は近接する^3ππ^※と^3nπ^※状態間に強い振電相互作用があることを示している.
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