研究概要 |
炭化水素基の間, 特にアルキル基と芳香環との間の引力的相互作用の存在を示唆する実験事実は, 本研究開始以前の筆者らを中心として研究により知られていて, CH/π相互作用と名付けられていた. 本研究は, このCH/相互作用の本性を解明しエネルギー的関係を明確にすることを目的として着手され, 赤外スペクトルを利用した相互作用に対する置換基効果および実験的エネルギー評価・NMR法によるArCHRXR'系の配座解析, 分子軌道計算および分子力学法による理論的考察を中心に研究を進めた. この種の弱い相互作用は水素結合に類似している面が多いので, 非局在化力(電荷移動力), 静電力(双極子間力), 分散力の寄与による相互作用と見なして, それらの寄与の大小をOH/Oなどの水素結合と比較して論ずる立場をとった. CH/π相互作用は一般にArCHRXR'系のArとR'の間で見られるので, これらの系についてNMRによる配座解析を行うとともに, 簡単化したモデル化合物ルについての非経験的分子軌道計算(4-31G)を行い, 結果としてCH/π相互作用はOH/π相互作用の1/3, CH/π相互作用にほぼ匹敵する結合次数を持っていて, 非局在化力の寄与がある一種の"化学結合"であることを示した. また, 本研究費で購入したFT-IR分光器により, Dで標識した分子内CH/π相互作用系についての赤外スペクトルの定量的測定を行い, それらの強度に対する置換基効果からCH/π相互作用に対する電子的効果を評価して, CH基と芳香環のπ系との間に水素結合に類似した相互作用が存在することを明らかにした. 他方, 分子力学計算によりCH/相互作用による配座平衡に対する効果が定性的には再現されることから分散力の寄与がかなり大きいこうとを示し, CH/π相互作用の本性をほぼ解明した.
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