研究概要 |
魚類の性行動は, 定型的な運動パターンから成り, その各々の解発刺激も明瞭であるため, 本能行動の神経機構を解析するには極めて適したモデルである. そこで, ヒメマス・シロザケを初めとする一郡の魚類を材料に用い, 運動パターン生成機構, 生得的解発機構, 階層的制御機構など神経行動学の中心的課題の解明を目標として一連き研究を行ってきた. 1.性行動のパターン生成機構:さけ科魚類の性行動は, 雌の営巣・雄の求愛・雌雄の放卵放精等の定型的な運動パターンから成る. これらの運動パターンを厳密に記述するため, 体側筋の筋電図解析を行った. その結果, 雄の求愛・放精行動と雌の営巣行動が体側筋の周期的活動を伴うことが示され, 脊髄に内在すると考えられる遊泳パターン生成機構との密度な関係が示唆された. そこでコバルトリジン法により, 脊髄への下行性経路を調べたところ, 延髄網様体・前庭・赤核・内側縦束核その中脳・脳幹からの下行路が明らかとなった. これらの部位は, 性行動の司令にあずかる可能性がある. 2.性行動の生得的解発機構:ヒメマス雄の求愛と放精は, パートナー雌の行動により解発される. その鍵刺激を, モデル提示実験によって定量的に検索した. 求愛行動には, 特定の形状と配色パターン(上半分黒, 下半分白の横長の長方形)を持つ視覚刺激が重要であり, 他方, 放精行動には視覚刺激と共に振動刺激が関与していた. すなわち, 視覚刺激が雄を雌へ導き, 振動刺激が雄の放精の引き金を引くことが分った. 3.性行動の階層的制御機構:脳局所の破壊と電気刺激の実験から, 終脳腹側野と内側視束前野が, 性行動を階層的に制御すく上位の中枢であることが分った. ゴルジ鍍銀法によりこれの細胞構築を調べた. さらにグーラミーを用いた免疫組織化学により, これらの部位に多数のLHRH免疫陽性繊維が見出され, LHRHと終神経の性行動への関与が示唆された.
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