研究概要 |
ヒトを含む哺乳類細胞を同調し, 紫外線(UV)を照射すると, 他の細胞周期に比べて, S期における照射が最も高い細胞がん化と突然変異誘発効果を示した. 一方DNA複製に異常を示す色素性乾皮症亜型(XPV)患者由来細胞でもS期におけるUV照射で同様な生物学的効果がもたらされることが知られている. 本研究ではS期に照射された細胞DNAに生じた損傷とその消長を極めて鋭敏に, かつ1ヶ1ヶの細胞について定量することを目的とした. そのために種々のDNA損傷を特異的に認識するモノクローン抗体を作製することとした. まず第1に, 大線量のUVを照射したDNAを抗原としてマウスを免疫し, 脾細胞を取り出して骨髄腫細胞と融合したところ, 多数の融合細胞中にUV照射DNAを抗原として結合する抗体産生クローンを得た. その後の研究で, 本抗体はチミンーチミン, チミンーシトシン配列を持つ(6-4)光産物を認識することが判明したため, 本抗体を64M-1と命名した. ついで, 313nmのUVをアセトフェノン存在下で照射されたDNAを抗原としてマウスを免疫した結果, 融合細胞中よりチミン2量体と特異的に結合する抗体(TDM-1)産生細胞を分離した. 64M-1, TDM-1抗体を用いて, 正常ヒト, 色素性乾皮症(XP), XPV細胞中のUV損傷の除去動態を調べたところ, 正常ヒト細胞では(6-4)光産物はチミン2量体より早く除去されるが, XP細胞では両者の除去は認められなかった. また, XPV細胞ではチミン2量体の除去は正常であるが, 6-4光産物の除去は正常細胞に比べ低いことが判明した. この6-4光産物の除去能の低下が, XPV細胞における高い発がん, 突然変異, 誘発効果を招来している可能性が示された.
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