研究概要 |
大乗仏教の主要な思想潮流の一つである浄土思想に関しては, 未開拓な部分や再検討すべき問題が多く残っている. 本研究では, インドにおける浄土思想の成立と展開, 並びに中央アジア・東アジアにおける浄土思想の発達形態を, 文献学と歴史学の方法論的基礎に立って究明し, 浄土思想の成立・伝播・受容の全貌を組織的に解明することに努めた. 1.文献研究--浄土思想の基本文献である<無量寿経>と<阿彌陀経>に関する文献学的研究を行った. 特に<無量寿経>について, これまで蒐集した34部のサンスクリット写本のすべてをローマ字に転写し, これらをコンピューターに入力する作業をほぼ終了した. そして, これらの大量の写本データを処理するためのプログラムも開発したので, とりあえず<無量寿経>の本願文の部分について, 全写本を比較対照して集成した. 近年, コンピューターの利用によるサンスクリット写本の研究が種々試みられているが, まだ本格的な成果が出たとはいえない状況の中で, 本研究において確立したデータ処理法は, 当該分野に新たな寄与を果たしうると思う. 2.思想研究--<無量寿経><阿彌陀経>及び『観無量寿経』を中心として展開した浄土教の思想史的研究を行った. まず, インドにおける原始浄土思想の諸問題を検討し, それが中央アジア・中国・朝鮮・日本に伝播し, 受容される過程について考案した, 特に浄土教における人間観を取り上げ, 人間を凡夫と呼び, その本質を悪人と見る浄土教特有の人間観がどのようにして成立し展開したかという問題を, 主として「浄土三部経」を中心として解明した. また中国浄土教の系譜については, 中国・日本におけるそれぞれ異なった査定があるが, まず中国人の査定の意図を検討し, 多様な形態をもつ中国浄土教の性格を究明した.
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