研究概要 |
本研究の目的は, 先天盲開眼者および弱視者(児)について, その色彩視機能ならびに両眼視機能の障害状況を明らかにし, それらの機能が療育的な働きかけを通じて発生・成立するに至る過程を長期にわたって追跡・探求することであった. その目的を果たすため, 先天性白内障の開眼者YYとKT, 色彩視と両眼視の機能に障害がある弱視児H(脳性マヒによる肢体不自由児)のほか, 色彩視・両眼視機能を含む種々の認知機能に障害を示す脳損傷事例A(AVMによる脳内出血で軽度の左片マヒを伴う)の協力を得て, 61年度から62年度にわたる追跡研究をおこなった. 得られた結果の主なものは次の通りである. (1)先天盲開眼者YYと弱視児Hとについては, 白色背景光(視角10°・1000td)上に提示される検査光(1°もしくは2°)の分光感度を中心視条件下で測定し, いずれも440または450nm・520nm・600nmλmaxをもつ3つのピークを見いだした. これは, 同一条件下での正常3色型の分光感度の測定結果と軌を一にするものであり, 同じ条件下のprotanopeないしdeuteranopeにおける分光感度の測定結果(前者440nmと550nmに, 後者は440nmと580nmにそれぞれλmaxのある2つのピークしか出てこない)とは明かに異なっている. にもかかわらず, (2)上記のYY・Hのいずれもが, 石原式色覚検査表の殆どを読むことができない. この点脳損傷事例Aについても同様である. 他方(3)3者とも標準色紙などの色彩識別は十分に可能である. (4)弱視児H(右眼視力0.1, 左眼0.4, 右眼の内斜視)については当初検出困難とされた両眼立体視の機能が, 古典的な線画のstereogramを用いる限り検出可能であることを見いだした. これに対し(5)Hの場合, ランダム・ドット・ステレオグラム(RDS)については, 両眼立体視がまだ成立していない状態が続いている.
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