研究概要 |
聴覚障害児の発音を改善するため, 発声時の呼気調節を中心に調べて発音指導との関連を検討した. 初年度には発音指導が一応完了していると考えられる中学と高校生の聴覚障害児80名健聴児240名を対象に, 発声機能検査装置等を用いて種々の角度から測定した. その結果, 聴覚障害児の肺活量などは健聴児のそれと同じであることにもかかわらず, 発声を長く持続できず語音によって多量の呼気を消費することが明らかになった. 具体的には(1)肺から発声に適すように呼気を一定に送出ずること, (2)喉頭において声帯が効率的に振動するように適度の緊張を保つこと, (3)口腔と鼻腔に流れる呼気を適切に調節すること, (4)発声をモニターして制御すること, が課題となった. 本年度にこれらを調べ発音指導のための基礎的な問題を検討した. つまり(1)の呼気流量の計測方法はマウスピースを用いた無関位発声が条件を統制でき易く妥当な方法と考えられた. 現在, 発声時の横隔膜や胸部の働きをポリグラフによって検討しており, 呼気の送出状況がさらに明確になりつつある. (2)の喉頭調節は声帯の振動数に対応する基本周波数を調べることによって検討を進めた. 声の高さを一定に保ことが困難であったり, 意図ぜずに裏声に翻展してしまうことも観測された. 中学1年生でほぼ完了するはずの変声期が聴覚障害児では延びたり遅れたりしているケースが多いことも明らかになった. (3)の口腔に出すべき呼気が鼻腔に流れてしまう現象については, 測定機を改良して気流のみならず音響的に分離して計測する方法を検討した. いずれの方法によっても聴覚障害児は通鼻音以外の音でも鼻咽腔閉鎖機能不全によって鼻から息と声が出てしまうことが量的に確認された. (4)の制御は健聴児が声を耳で聞いて(1)(2)(3)を制御しているのを, 視覚または触振動覚でモニターさせる必要がある. 測定機器は実時間で結果を表示できるので訓練機として有効と考えられた.
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