研究概要 |
本研究の目的は, 研究代表者らが10年前に行った「海外・帰国子女の適応に関する調査研究」の対象となった655名の「帰国子女」のうち, 現在調査可能なものについて質問紙調査と面接調査を行い, 1)幼・少年期に海外で生活した成人「帰国子女」は, 現在どのようなパーソナリティーや文化的帰属意識をもち, また2)それがどのような過程を経て形成され, その際とくに在外中および帰国後の「異文化体験」によって, どのような影響を受けたかを調査研究し, その結果にもとづいて, 3)「帰国子女」の日本の社会および学校での適応の個人的・社会的意義を検討することである. 上記の諸調査研究および文献研究の結果, 次の諸点から明らかになった. 1)幼・少年期に海外で生活した成人「帰国子女」の帰国後のパーソナリティ形成には, 海外体験の有意義性, 滞在期間, 語学力(外国語), アイデンティティの確立度, 日本社会への親和度などの要因が大きく作用している. 2)全体としてみれば, 幼・少年期における海外生活に対する帰国直後の評価と, 10年後の現在の評価との間に大きな違いはみられない. しかし個々の「帰国子女」の適応過程は多様であり, それに伴って評価も変動するので, 「異文化体験」の意義は長期的な視点から明らかにする必要がある. 3)「帰国子女」は一般に, 「異文化体験」, とくに在外中の生活経験を肯定的にとらえている. 大学進学をはじめ, 帰国後の日本社会への「適応」も比較的スムーズであり, 「異文化体験」をふまえた広い視野を身につけている. 4)しかしアイデンティティ形成にとくに顕著にみられるように, 「帰国子女」がその異文化体験を十分に生かすには, 親や兄弟を含めた家族関係だけでなく, 学校生活や交友関係などの「公的な」環境条件をいっそう整備し, きめ細かな制度的な配慮を充実することが望まれる.
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