研究概要 |
この研究では, 基本的なフレームワークとして, 与件としての環境要因を前提とし, 独立変数あるいは投入としての公正取引委員会が持つ様々な法的手段による法執行と従属変数あるいは産出としての独占禁止法の実効性(それは競争政策がどの程度実現されたかによって測定される)の関係を分析するという方法が取られた. 研究の手段としては公正取引委員会の運用に関する文献の総合的分析・公正取引委員会の運用状況についての統計的分析, 公正取引委員会事務局のスタッフからの聞き取り調査などによった. 与件としての独占禁止行政の環境として, 我々は国際化の進展に伴う貿易摩擦, 政府規制分野への競争原理の導入, 経済の情報化に伴う問題をあげることができる. そしてこの3つの事実は競争政策の重要性を示していると共に, 特に前二者は競争政策の実現を促す外部因子として把握することができる. 以上の与件を前提として公正取引委員会が持つ52年度改正法に依って実現された法的手段とその実効性が検討された. まず第1に, 企業分割制度はここ10年間発動されたこともないし, また, 長期的にみれば市場機構の働きにより怠惰な独占は淘汰されるから, 企業分割はそのコストを考えると無益であると考える立場もあることもできる. しかしビール業界の例を分析することにより企業分割の規定の依存が首位企業をして下位企業を駆逐する戦略を自制せしめたことを示し, 企業分割の規定は法執行の存在を伴うことなく規定の存在そのものが抑止効果を持っていることを明らかにした. 第2に, 課徴金制度とカルテルの規制については, 初期の課徴金制度の厳格な執行がカルテルの発生に対して抑止効果を持ったことを明らかにし, さらに最近の傾向としてのカルテルに対する非公式な警告の増大は行政コストを軽減しながらカルテルの抑止をはかる過程であることを明らかにした.
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