研究概要 |
まず, 戦前の商工官僚の1人であった美濃部洋次が, その行政事務に関連して収集し, 国策研究会に所蔵されてきた大量の文書を発掘し, 未整理史料全体について目録カード作成作業を行なった. 616件6624点にのぼる同文書を大きく分類すれば, 以下の通りとなる. A.戦時統制関係 B.初期経済統制関係 C.生産力拡充関係 D.物資動員関係 E.大東亜共栄圏関係 F.繊維統制関係 G.新体制関係 H.政治関係 I.行政査察関係 J.戦後関係 K.未定稿その他 これら多岐にわたる同文書の内容を検討するため, 目録作成作業を一段落させたのち, 専門研究者による研究会を組織して相互報告を重ねた. 同文書のうち, 太平洋戦争開戦後ほゞ1カ年を経た1942年末に設置された臨時生産増強委員会による鉄鋼・石炭・アルミニウム等の緊急生産増強対策に注目し, 委員会の活動内容に即してこれを検討した. 鉄鋼業に関する八幡製鉄所の鋼材滞貨処理および小型溶鉱炉設置問題, 石炭業における挙国石炭確保運動の推進と石炭危機への対処, 軽金属産業のアルミニウム増産対策, 造船業の木造船推進政策などがその主要なものである. 同委員会の発足時に緊急増産の対象とされた鉄鋼・石炭・軽金属・造船・航空機の五産業は1943年3月の戦時行政職権特例により五大重点産業として指定され, 同委員会の活動が初期作戦期の楽観的政策運営から戦時緊急増産への転機となったことを示している. 43年9月には国内態勢強化方策により航空機生産最優先政策に移行し, 軍需省設置による行政制度の根本的改正と軍需会社法の制定にいたったのである. なお, 上記の美濃部文書に関する研究会の成果を編集して, 別記の図書を刊行したことを付言する.
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