研究概要 |
本研究では, 家計の貯蓄行動と所得分配の状況の実態及びそれらの相互関係を, ミクロ・データを用いて分析するとともに, 日本の資産税制の特徴を捉え, それが貯蓄に与える影響を分析した. データとしては, 総務庁の許可を得て『貯蓄動向調査』の1977年から1984年までの個表(サンプル数, 合計1万6千強)を利用した. 主要な発見は, 次の通りである. (1)マイクロ的な所得成長率の低下にもかかわらず, いまなお高家計貯蓄率が維持されているは, 1970年代前半と比べて, 金融資産の貯蓄が進んだにもかかわらず, 同時に家計が目標とする資産・所得比率が上昇したためである. 背景として, 予備的動機の高まりが考えられる. (2)家計の貯蓄率が, 恒常所得分位とともに逓増的となる効果は, 発見できなかった. このことは, 報告されたデータを信頼する限り, 長期的に所得の伸びとともに金融資産の分配に大きな偏在可の生ずる傾向の小さいことを意味している. しかし, 同時に家計の資産データ自体にも問題がいろいろ存在することが明らかになった. (3)原データにない家計の利子所得の推計作業を通じて, 高齢者において, 収益性の高い資産を保有する割合が高まること, その結果, 貯蓄優遇税制の相対的に大きな受益者であることが確認できた. その他の年齢階層については, 仮に貯蓄率の利子弾性を大きめにみても, 税制の影響はほとんど皆無に近いことがわかった. (4)高齢者家計の問題を一段と堀り下げて分析を行ない, その就業行動と貯蓄行動の相互関係を分析することを通じて, たしかに, 就業家計が非就業家計に比し13%程度貯蓄率の高いこと, しかし, 相互の内生的関係のため, 年金・税制等の外生的要因の変化があっても, 貯蓄率にほとんど変化の生じないことがわかった.
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