研究概要 |
一次相転移は, 秩序変数が不連続に変化する転移であり, 例えば, 秩序変数として密度をとると, 密度の不連続が2つの相の界面で起きている. この界面によって区切られた領域をドメインと呼ぶ. 我々は, このドメインの時間的発展を高分子結晶の成長について研究した. アイソタクチックポリプロピレンの融液をガラス状態に急冷した後, 昇温過程においてガラスからスメクチック相, 更に単斜相へと結晶化する過程を電子顕微鏡及びX線小角散乱により観察した. ドメインである結晶は, 数十nmの粒状であることが電子顕微鏡により明らかとなり, X線小角散乱では, 昇温過程で著しい散乱強度の増大と, 強度極大の位置の小角側への移行が観察され, ドメインの成長が確認された. これらドメインの界面で密度が不連続か, また界面が滑らかは, ドメインの成長機構を理解する上で大変重要である. 我々は, 界面の情報を得るために, X線小角散乱における広角度領域, ポロド領域での散乱を測定した. その結果, ガラスから成長してくるポリプロピレンの結晶は, フラクタルであることが明らかとなった. 界面がフラクタルであるという事実は, 従来の「滑らかな表面」と仮定した取り扱いに, 重大な疑問を投げ, 新しい発展が期待される. 一方, 融液からの球晶の成長過程を光散乱光度計を用いて研究した. この結果, 光散乱で測定される長さのスケール(数百nm)では, 球晶は, 光学的位一軸性の結晶が放射状に発達した球して取り扱うことができることを示している. この場合には, 従来の取扱いが可能であり, アブラミの結晶化度の時間的発展の理論や関本の理論が適用できる. 以上は融液からの結晶成長であるが, 溶液からの結晶成長の問題を明らかにするため, ポリプロピレンの折り畳み鎖結晶の結晶成長速度及び結晶の厚さの分子量依存性を測定した. 高過冷却度では, 成長面が荒れている(ラフニング)立場で解析を行い, 満足すべき結果を得た.
|