研究概要 |
61年度に引続き, 有機導体(TMTSF)_2PF_6を中心にSDW転移の性質の圧力依存性に関する研究を行った. 本年度新たに得られた研究成果は次の通りである. (1)圧力下のSDW振巾:単結晶試料を用いた^1HーNMR吸収線の解析により, (TMTSF)_2PF_6におけるSDW転移温度T_<SDW>とSDW振巾の関係を調べた(昨年度より継続). この結果, 圧力下でT_<SDW>は急速に減少するにもかかわらず, 絶対零度に外挿したSDW振巾はほとんど変化しないという顕著な事実を見出した. これは, 山地によって指摘されていたSDWのネスティング機構に特有の振舞である. 本実験はこの模型の妥当性を直接証明するものである. (2)SDW転移以下でのNMR緩和率の異常:上述の物質においてNMR緩和率を測定, T_<SDW>における鋭い異常の他に, さらに低温域に新しい相転移を示唆する異常を見出した(昨年度). 本年度はこの異常の圧力依存性を詳細に調べた. 圧力下でT_<SDW>が抑制されるにつれて新しい転移点も低温側にシフトし, 緩和率は鋭いピークを示すようになる. 又, 新しい相境界は金属一超伝導の境界に連続的につながるように見える. これはまったく予期しない振舞で, 転移の機構, 低温相の性質の解明は今後の重要な課題である. この系のSDW状態は, 当初予想されていたより一層複雑であることが明らかとなった. (3)(DMET)_2Au(CN)_2の低温非金属相:最近, (TMTSF)_2X系と(BEDT・TTF)_2X系をつなぐ新たな超伝導物質として(DMET)_2X系の塩が合成された. この系と前二者との系統的な比較は有機導体の理解にとって欠かせない情報を与えるにちがいない. 我々はAu(CN)_2塩について, 常圧における低温非金属相がSDW相であることをNMR吸収線巾と緩和率およびEPRの測定から明らかにした. この意味でAu(CN)_2塩は, TMTSF系に近いといえる. 今後の系統的比較研究が待たれる.
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