研究概要 |
本研究では, 固体内で電子・格子強結合系を示す格子欠陥の光学的励起状態の呈する動的緩和過程を共鳴2次発光(RSE)の測定から明らかにした. RSEは, 共鳴ラマン散乱(RRS), ホットルミネセンス(HL), 通常発光(OL)の順で起こる. 我々は, 代表的な格子欠陥であるF中心のRSEスペクトルを全ストークス領域にわたって初めて測定した. 実験データの解析から以下のような知見を得た. 1.F吸収帯とRSEスペクトルは, 非調和断熱ポテンシャル中を滑り落ちるA_<1g>モードの古典的調和振動子のダンピングとして近似的に表現できる. 2.この際の格子緩和時間はRbClで, 2.4×10^<-13>秒である. 3.共鳴励起の直後で, F中心の軌道関数の膨張で生ずる電子・格子の2次相互作用のためにT_<2g>モードとの一次結合は消滅する. 4.2sと2pの準位交差での動的遷移割合は60%である. 5.古典的調和振動子のダンピングの折り返し点での異常発光を測定した. 萱沼は電子格子強結合を呈する2準位系モデルについてRSE強度を量子力学的に計算し, HL強度が格子緩和の進行と共に急減する特性を機構的に解明した. 次に, 我々は, 人工のエメラルド結晶中のCr^<3+>の蛍光スペクトルが天然産のそれに比べて著しく変化している原因が, 後者に含有されているFe^<3+>イオンによるCr^<3+>イオンの結晶場の変化として説明した. 最後に, GaAs中で代表的な電子・格子強結合を示す格子欠陥のEL2の1.34μmYAGレーザー励起によるRRSが80Kで8200cm^<-1>にピークを持ちT_2=5×10^<-15>秒のアンチストークスのローレンツ曲線を示すことを発見した. このスペクトルは, 80Kでの1.06μmYAGレーザー照射によるOLの消光現象を利用して定めたものである. このバンドの温度依存性などに異常が発見されていて, さらにその詳しい研究を必要とする.
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