研究概要 |
多くの共有結合性半導体で観察される照射促進転位すべり効果(REDG効果)を利用して, 同じ共有結合性結晶であるSiC中の転位の易動度を人為的に変えることにより, 同結晶を素材とするセラミックス材料の破壊靱性値や加工性を制御できる可能性を基礎面から探った. このため, (1)SiC結晶が本来もつ転位の運動特性の解明とその機械的強度との関係を, 脆性一延性遷移をはさむ広い変形温度範囲にわたって微小硬度試験, 高温圧縮試験, 変形導入欠陥の透過電子顕微鏡観察と組合わせて系統的に調べた. さらに(2)REDG効果が顕著なGaAs結晶につき同効果による破壊靭性値の向上を調べ, (3)REDG効果を検証するために最適かつ汎用性ある実験法を使ってSiC結晶のREDG効果を検証することを試みた. その結果, (1)6HSiC単結晶の底面すべりは従来の常識よりはるかに低い1000°C以下から活発になること, (2)800°C付近で起る焼結体の脆性一延性遷移はこの転位すべりの活性化によって説明できること, (3)転位すべりはパイエルス機構で律速され, その活性化エネルギーは3.4evであること, (4)積層欠陥エネルギーが2.5mj/m2と非常に小さく, 低温(室温〜800°C)でも部分転位が容易にすべって積層欠陥を形成するような塑性変形モードがあること, (5)N型のGaAs結晶に圧子を圧入することによって導入されるクラックのうち, あるタイプのクラックは光照射によって成長が制御され, 破壊靭性値が約2倍に増大すること, (6)REDG効果があっても転位の易動度があるレベルに達しないとクラック伸展抑制効果は現れないこと, (7)N型6HSiC結晶ではREDG効果は認められないが, P型結晶では圧子圧入クラックの電子線照射による伸展抑制効果が認められること, が分かった. 以上の結果から, 応力条件, 結晶の電気的特性など諸条件が整えば, SiCでもREDG効果による破壊靭性の向上が可能であるとの見通しを得た.
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