研究概要 |
本研究の目的は, アトムプローブの特性を生かし, 電導性高分子内の構成原子間の結合状態とドーパントの分析, 酸化による結合状態と組成の変化, 更に金属-高分子界面の構造等を原子レベルで解明すること, 更に高分子分析の成果を生かして超電導セラミックスの極微分折を試みることにある. アトムプローブの試料は先端の曲率半径が1000A2F2(コード)以下の針状であるが, このような高分子の針を作製することは容易ではない. 本研究では, 電導性のポリピロール(PP)を試料としたが, Ptの針の上で電気化学的にピロールを重合させてPPの薄膜を形成させた. PPを導電性にするドーパントとしては, ClO_4-やBF_4-が用いられた. PPと金属の界面はアトムプロープに装着された蒸発源を用いて形成した. アトムプローブのPP分布により検出されたクラスターイオンの分析は, PPの酸化は, PP内のC-H結合間にOが入り込み, やがてHを遊離してC=O二重結合を形成すること, 酸化層の厚みが3ケ月で約500A2F2(コード)になることを示した. ドーパントとしてPP内に含まれるClは, Clの蒸気圧が高いので検出されなかったが, 高融点のBは未酸化の領域から検出された. Bが酸化領域から検出されないのは, 酸化領域の拡がりとともにBが移動するためと考えられる. PP上にAl, AgやIn膜を蒸着して分析すると, ほとんどのAlとAgは単原子イオンかAlOやAgOとして, InはIn-CO, In-C_2O_2, In-C_2NO等のように酸化PPのフラグメントと結合して検出され, 他の手法の結果との一致が見られた. 高温超電導セラミックスの電導機構として, 電子分極による電子間引力相互作用が提案された. この機構では, セラミックス界面に吸着結合した酸素が, 電導に関与しているとされるCu-O結合面上の酸素の電荷をシフトさせ, その酸素の非共有電子対による電子分極が, 伝導電子間の引力相互作用を生み出し, これがクーパー対を形成する.
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