研究概要 |
1.研究担当らが開発したアルカリイオン及び中性粒子照射併用型負重イオン源を用して, これに質量分離器及び負イオン減速系を組み合わせて, 蒸着に適する運動エネルギー(数eV〜数百eV)の負イオンビームを発生できる負イオンビーム蒸着装置を開発した. (1)これを用いて, 負イオンビーム蒸着による膜形成技術の研究として, 純粋なC^-及びC^-_2イオビームによる炭素蒸着膜を製作した. (2)膜特性のイオンエネルギー依存性を調べた. 光学的バンド幅, 電気抵抗率, 密度, 熱伝導率などの特性は強く運動エネルギー依存性を示し, エネルギーが100〜200eVの時極めて良質で透明な炭素膜が得られた. (3)イオン種依存性では, C^-_2ビーム蒸着膜の特性の方が優れていた. (4)これらの依存性は基板表面に与えるエネルギー密度やイオンの持つ結合状態(電子配置)に起因すると考えられる. 2.同時に開発した負イオンビーム注入装置を用いてS基板にCを注入し, SiCを形成し, 負イオンビームの注入飛程や分布及び注入層のアニール温度依存性を調べた. (1)注入イオン分布については負イオンの場合にもほぼLSS理論で記述できることを立証した. (2)アニール温度依存性では, 925゜Cでβ-SiCの結合が形成されることが分かった. この様に, 負イオンビームによる結晶性制御技術の開発を行った. 3.負イオンビームとガス粒子との相互作用として, 物理学的にも基礎的かつ重要であり, 又工学的にも負イオンビーム装置の設計にとって必要な負イオンビームの電子離脱断面積を測定した. これにより, 設計時には必要な真空装置や真空度, 負イオンビームの輸送距離と利用効率など, 実際の使用時には輸送による不純イオン種の混入率などが得られる. 以上, 負イオンビームの高効率発生と正確なエネルギー制御の確立による蒸着や注入装置の開発, ガス粒子との相互作用, 膜形成や結晶性制御技術開発の研究を行い, 多くの成果を得た.
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