研究概要 |
原子的に平坦な結晶表面上に物理吸着した単分子層以下の気体分子系は, 擬2次元的なふるまいをしめす. 吸着平衡測定, 電子線・X線・中性子線回折, 熱量測定, 核磁気共鳴などの手段を用いて, この系の統計熱力学の実験的な研究が行われてきた. 広い面積を持つ特殊なグラファイト上の吸着平衡から得られた2次元の相図, 金属単結晶表面上の物理吸着層のLEEDによる構造解析等はその代表である. しかし現状では,主として実験上の制約から, これらの異なる手段による結果を直接比較することはできていない. 本研究の目的は, 物理吸着層の研究の分野において, 偏光解析の手法を新しい実験技術として確立することである. 偏光解析法は, 単結晶表面などの小さな試料面で測定できる. 1/100原子層程度の高い検出感度を持つ, 測定圧力に制限がない, 試料に対する損傷が少ない, などの利点を持つ. 従って, 例えば, 平衡圧力1Pa近傍でのXe/graphiteとXe/Ag(111)のそれぞれの系の相図を比較対照し, 下地の影響製を議論することが可能となる. 作製した実験装置の概要は以下の通りである. 真空容器はアルミニウム合金等で, 到達圧力は10^<-7>Pa以下. 試料温度は, 20Kから150Kの間, 0.01Kの精度で制御可能. 試料表面の清浄化はグロー放電洗浄により行なう. Ag単結晶(111)表面上のXeの系を最初の実験対象とした. 消光法で測定されたパラメーターΔ(JIS:A6A4)は, 気相のXeの圧力に対して階段状の変化を示し, それぞれのステップが, 多層吸着における単原子層の形成に対応することが明らかになった. 1原子層あたりのΔ(JIS:A6A4)の変化分は約2°であった. Δ(JIS:A6A4)の測定精度は±0.2°で約1/10原子層に相当し, 改善の余地が残されている. 今後, 測光法および分光偏光解析の手法を採り入れて, 測定精度の向上を計るとともに, 吸着相の分子密度だけでなく分極率, 双極子能率など相の電子状態に関する情報を取り出すことも試みる.
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