研究概要 |
乱流境界層の抵抗低減に著効のあるトムス効果(液体中に極微量の高分子溶液を混入すると摩擦抵抗が低減する)のメカニズムに対するモデルを提案し, それを気体の流れについて検証しようとするのが本研究の目的である. その提案されたモデルの第一は壁面に植毛された繊毛で, これが流体に受動的に作動してレイノルズストレスを減らすのではないか, と予想された. 実験は風洞中におかれた壁面の一部をくりぬいて剪断力に応じて変位できるような装置を考案し, その変位をギャップセンサーで測定して剪断抵抗力を測定した. 結果としては, この方法では抵抗低減は得られなかった. その理由は, 静電植毛では植毛可能な繊毛の太さ, 長さに下限があり, 境界層の粘性底層の厚みより小さな長さをもつ繊毛が植毛不可能であったことによる. 次いでこの欠点を改良するため, 太さ0.1mm程度の釣糸を流れ方向に張ったモデル(釣糸モデル)を用いて同様の測定をしたところ, ある範囲で抵抗の低減がみられた. その範囲は, 粘性底層の特性長l^+の単位で釣糸の直径が5以内, 間隔が50以内のところであった. 最も大きい抵抗低減は直径2.5, 間隔25のところで観察された. このパラメタ下での抵抗低減は約8パーセントであった. 一方, ナビエ・ストークス方程式の直接シミュレーションによってこの効果が数値的に確認されるかどうかの計算をスーパーコンピューターによって, おこない, 実験値の約3倍の低減が得られた. 両者の不一致は数値シミュレーションが小さい乱流渦を記述する精度に限界があることに由来するが, 両者の定性的な一致はこの低減デバイスの有効性を示すものである.
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