研究概要 |
本研究は, 音像の音空間内での定位位置を決定している要因を探り, その結果を基に音像の定位を制御するための方法について検討しようとしているものである. そのため, 音像の頭外定位と距離感を決定する上で主要因子と考えられる頭部伝達関数を正確に測定し, その後, これらの頭部伝達関数をAR, 及びARMA分析して, 音源方向によって頭部伝達関数の零点と極がどのように移動するかについて検討した. また, 各被験者の頭部伝達関数をできる限り正確に模擬し, これに信号を畳み込んで作成した音をヘッドホンで再生した場合の定位精度について検討した. さらに, 頭部伝達関数をAR及びARMA近似した場合の定位の様子について検討し, 頭部伝達関数のどの部分が定位の決定にどのように寄与しているかについて詳細に調べた. また, 同時に複数の音像を作り出したときに, それらが音空間内で互いにどのような影響を及ぼし合うかについての検討も行った. 以上のような検討の結果, 次のような知見が得られている. 1)水平面内の制御は両耳間時間差, レベル差の制御である程度可能であるものの, 前後も含めた正確な制御には頭部伝達関数の正確な模擬が必要である. 2)音像の前後を正確に制御するためには, 約5kHz以下の頭部伝達関数をかなり正確に模擬すると共に, 頭部の微小回転の影響も考察する必要がある. 3)音像定位上下判断は, 頭部伝達関数のおよそ数kHz以上の帯域が近似的に模擬されていれば実用上充分な精度で制御できる. 4)複数の音像を同時に音空間内に定位させた場合, 一般にそれらの音像は互いに反発するような方向へ移動する. 5)以上要すれば, 頭部伝達関数の正確な模擬を行なうことによって, 前後感にはやや問題があるものの, かなりの程度の音空間制御が可能である.
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