研究概要 |
生体内深部温の無侵襲計測法は, 癌の温熱療法をはじめ医療の様々な分野でその実現が強く望まれている. 本研究は, 超音波反射波を用いて無侵襲でかつ適切な空間分解能をもった体内深部温度計測法の開発について研究した. この測定法の原理は, 生体組織の減衰定数の周波数微係数βが, 温度依存性を持つことを利用し, 反射波のパワスペクトルから生体内部のβの分布を求めることで温度分布を測定するものである. 従って, このためには(1)適切な空間分解能と測定精度を持ったβの推定法の開発と, (2)組織のβの温度依存性についての基礎データを得ることが必要である. βの測定については, その精度向上のために次のようなことを行った. まず, 反射特性によるスペクトルの歪を少なくするため, 生体からの反射波のうち組織境界面からの大きな反射波成分を除去し, 残った不規則な反射波成分からスペクトルを求めた. 次にスペクトルの統計的な変動分を低減するため, 空間的な平均か操作を行った. さらにな離散的な測定点での値から滑らかな温度分布を求めるため二次元的な補間を行った. また,βの温度依存性については, 肝臓や筋組織など様々な組織について, 測定し基礎データを得た. その結果, 第一近似ではβの温度係数は定数と見なしてよいことが示された. また, 詳細な温度特性については組織に依ってもかなり異なることが明らかにされた. また豚による動物実験を行い, 血流の影響や摘出後の時間変化などについても検討した. これらの結果により, 2X2cmの空間分解能で異常発熱部の検出などが可能になることが示された. 以上より, 実用化までは測定精度の点で改善すべき点が残されているが, 無侵襲的温度測定法が皆無に近い現状では, 本研究の成果は一つの可能性を示した点で意義が大きいと言える.
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