研究概要 |
弾性域を越える負荷履歴を受ける材料から構成される構造物の応答解析を工学的に意味のある範囲で精度良く実施することは必要であり, その基本は素材の応力-ひずみ関係である. 本報告書では, まず研究代表者らが提案した繰り返し塑性モデル(提案モデルと呼ぶ)の概要を示す. 提案モデルは多曲面塑性モデルに修正を加えて構築されたモデルである. 提案モデルの妥当性を確認するため, 3種の構造用鋼材の材料特性を基本的な素材試験によって決定した. そして, 材料特性を求めるために実施したこれらの試験とは別に実施された繰り返し載荷試験において測定された履歴引張圧縮応力-ひずみ関係を, 得られた材料特性を用いて提案モデルによって計算した. その結果, 提案モデルを用いることによって, 履歴引張圧縮応力-ひずみ関係が精度良く推定できることを示した. 次に, 提案モデルを用いて, みりおよびはり-柱断面の履歴曲げモーメントー軸力-曲率関係を求める解析システムを構築した. 本方法では, 提案モデルを一軸応力状態に適用し, 接線剛性法を一部修正して高精度化をはかった. 解析システムの応用例として, 圧延H型鋼はりの弾塑性履歴曲げモーメントー曲率関係をそれによって推定し, その有効性を検討した. そのために厳しい交番曲げを受けるH型鋼はりの曲げモーメントと曲率の関係を測定した. 材料特性は試験体から切り出した試験片の引張試験と基本的な引張圧縮試験から決定した. 試験体の残留応力は孔あけ法により測定した. 測定された材料特性と残留応力を用いて, 交番曲げを受けるH型鋼はり断面の履歴曲げモーメントー曲率関係を計算した. その結果, バイリニアモデル等の簡略な応力-ひずみモデルをこのような問題に適用することは妥当ではなく, 提案モデルを用いた本方法によって精度良くそれらの関係が推定できることを示した.
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