研究概要 |
合金を溶融状態から急速凝固させて得られる材料には通常の方法で凝固させた材料にはみられない優れた特性をもつものが多い. しかし従来の方法で得られる急速凝固材は凝固時の奪熱速度を大きくする必要上, 薄片, リボン, 細線あるいは粉末に限られており, これらを固化することによって実用材にすることとなる. 本研究では比較的厚い急速急凝固材を直接作製することのできる溶射法によって, 3.5Wt%, 10〜40Wt%Cr, 0.8〜1.54Wt%Siを含む4組成のFe-C-Cr-Si合金の急速凝固材を作った. 溶射用合金は粒径53〜105μmの粉末である. プラズマ溶射は減圧のAr雰囲気中で行ない, 鉄製の水冷回転基板上に合金を約400μmの厚さに溶射した. 得られた皮膜には溶射したままの状態で各組成共に準安定γ相が存在する. プラズマ溶射では皮膜を十分に冷却することが現段階では困難であるため, 冷却効果を高めると共に皮膜をち密化する工夫をしたガス溶射装置を用いて水冷鉄基板上に粉末を溶射し厚さ約500μmの急速凝固皮膜を作製した. 以下では, この皮膜での結果について述べる. 液体凝固時の冷却速度は10^5〜10^6K/Sである. 溶射したままの皮膜には各組成共にC及びCrを過飽和に固溶した準安定γ相が存在し, Cr含有量の多い皮膜にはα相もふくまれている. これらの皮膜を種々の温度で焼鈍したところ, 673K以上でγ相が分解し始め, 873Kではγ相が消滅して平衡相であるα相と炭化物(M3C, M7C3あるいはM_<23>C_6)になった. 皮膜の微小ビッカース硬さは非常に高く, 皮膜を473〜673Kで熱処理すると微細な炭化物が析出するために硬さはさらに上昇した. 熱処理温度がさらに高くなると炭化物が粗大化するために硬さは低下する. 溶射皮膜の引張強さとヤング率の値は, 熱処理温度を高くすると相変化のため, あるいは皮膜に含まれる気孔が減少するために増加するが, ち密な材料に比べて値は低い. 皮膜内の気孔や酸化物をさらに減少させることが必要である.
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