研究概要 |
破壊現象は元来, 確率的性質を有し破壊試験によって得られる結果はある確率分布関数にもとずく実現値であるので, その確率分布を知ることが実用上重要である. 本研究では鋼の破壊靱性の確率分布は破壊の微視的機構(破壊条件)と密接な関係があるとの立場から先ず微視的破壊条件の確率的性質を明らかにした上で, 種々の組織を有する鋼についてその破壊条件と破壊靱性との関係を定量的に調べ, 微視的尺度における破壊過程の確率的要因が破壊靱性のばらつきにどのように反映されるかを検討した. さらに, 破壊条件と破壊靱性との解析的相関関係を利用して丸棒引張り試験による破壊靱性の推定を試みた. へき開破壊の確率的性質に関しては次のような結論を得た. 1)へき開破壊応力の確率分布はWeibull分布に従う. 形状係数αは材料によってことなる. 2)へき開破壊応力には切欠(応力勾配)の影響がみられその影響はFEM解析を用いた最弱リンクモデルによって定量的に良く説明できる. 3)破壊靱性の確率分布は上記の結果を基にした解析的予測に近い分布を示し, 材料による差は小さい. 4)へき開破壊応力のばらつきは破壊靱性のばらつきの形に直接影響しない. 組織, 粒径, 化学成分(炭素量, Nb添加物)を変化させた17種類の鋼について, へき開破壊応力, 破壊靱性に及ぼす影響とそれら相互の関係について調べた結果, 次のような結論を得た. 1)へき開破壊応力は組織によらず温度には殆ど依存しない. 2)マルテンサイド, ベイナイト組織ではへき開破壊応力を支配する冶金的因子は明かでないが, 極低温における降伏応力と良い相関がみられる. 3)へき開破壊応力および降伏応力と破壊靱性との間には良好な相関関係があり, 種々の冶金的因子が破壊靱性に及ぼす影響はそれらが降伏応力, へき開破壊応力に及ぼす影響としてとらえることができる.
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