研究概要 |
結晶成長学の立場から, 過去7年間にわたり, 胆石の過半数を占めるコレステロール胆石の形成を研究してきた. 摘出された多数のコレステロール系胆石(以下コ石と略称)の外形や割面の観察と簿片試料の偏光顕微鏡観察から, 放射状構造を特長とするコ石の中心部が多数の板状晶の不規則な集合からなり, 一点から放射状に配列していないことを確かめた. 即ち, コレステロール分子が直接放射状の球晶状を形成したのではなく, いったん薄板状の微細単結晶として晶出した後に, 凝集によって球晶状になると考えられる. 事実, コ石をもつヒト胆汁を偏光顕微鏡や位相差顕微鏡下で観察すると, 平行四辺形の簿板晶として一水化コレステロール単結晶が無数に観察される. しかし, それらは数10μmの大きさで, 最大のものでも1mm以であるので胆管を通して胆のうから運び去られ, 結石にはならないだろうと推定される. しかし, 短期間に凝集し, 5mm以上の塊状となれば, 胆のうから出てゆけなくなる. この集塊が胆のう内で回転しながら多数の簿板晶を集めると結石化する. しかし, 雪ダルマ式に集めたら同心円状の内部組織になる. これが放射状に配列する機構を, 顕微鏡で直接関節することに成功した. さらに, 結石の形成抑止の立場からは, 結晶成長学的に, 核形成の待時間, 結晶成長様式と成長速度を過飽和度と関連づけて測定をした. このためにはヒト胆汁ではなく, 条件一定のモデル胆汁を用した実験が必要である. 37°Cでケノデオキシコール酸タウハン抱合体ナトリウム塩, レシチン, コレステロールによる抱和モデル胆汁を作製し, 25°Cに冷却してコレステロール一水化物単結晶を成長させ, 世界ではじめて渦巻成長機構が働ていることをモデル胆汁とヒト胆汁の両方で実証した. さらに球晶過初期状態を鏡下で撮影することができた. 今後は結晶塊を胆汁中で回転させる実験を行い, 球晶化の機構を実証的に明らかにする予定.
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