研究概要 |
光散乱は「光波により生じた電気双極子からの双極子放射」と考える事が出来る. したがって光の電場によって結晶内に電気分極が生ずることが必要である. このような視点からすると, 赤外線のエネルギーは, 1eVあるいは, それ以下であるから, 赤外線で分極する電子の束縛エネルギーも, 1eV程度以下でなければならない. このことは, 赤外線散乱法によって半導体の電子的欠陥を研究することが出来ることを示唆している. 次に, 光散乱法を「光の回折」という視点から眺めてみたい. 回折現象はsinθ/λで律せられるので, 波長がX線の一万倍, あるいは, それ以上に長い赤外線の散乱ではX線小角散乱で観察される程度の大きさの欠陥が90度光散乱で観測可能となる. すなわち, 赤外線散乱法は半導体内の格子欠陥, 微小欠陥, クラスタリングなどで生ずる「密度ゆらぎ」と, 不純物で装飾された転位線などを観察のに適している. 一方, X線の吸収係数は原子番号にほぼ比例するので, GaAs, InPといった重い原子を含む化合物半導体結晶をX線で調べる為には, 結晶を薄片化しなければならないが, 赤外線は, これらの半導体を容易に透過するので, 数センチといった大きな結晶でも薄片化することなく, その内部を観察することができる. 結晶に含まれる欠陥には, 転位線のように結晶の成長を本質的に左右するものと, 成長条件の変動が導入されるものとがあるが, これらは, いずれも結晶成長状態を記した指標として用いる事が出来る. とくに, 赤外線散乱トモグラフィーのように数センチの大きさの結晶を非破壊的に調べることが出来る場合には, 欠陥相互の関係が明瞭になり結晶がどのように成長したかが明らかになる. 換言すると, 欠陥の種類とそれらの相互関係の観察から結晶がどのように成長したかが分り, 結晶育成技術に非常に有効な情報が得られた.
|